「村木厚子氏オンライン講演会」を開催しました

2021年2月24日(水)当財団主催による村木厚子氏オンライン講演会「社会的養護下の
子ども・若者を考える」を開催しました。

今年で3回目を迎えた本講演会は、新型コロナウイルス感染拡大防止のためオンラインで
の開催となり、240名の方々にご参加いただきました。
ネット環境のない方で視聴をご希望の方には、DVD送付の申込みを受け付け、より多くの
方にご視聴いただけるよう案内をさせていただきました。

今回、基調講演としてお招きした村木厚子氏は、1978年に労働省(現厚生労働省)に入省され、
女性政策、障がい者政策などに携われました。
2009年に、郵便不正事件で有印公文書偽造等の罪に問われ、逮捕、起訴されるという
出来事にみまわれますが、翌年の2010年に無罪が確定し復職。2013年から2015年まで
厚生労働事務次官をされ、退官後は津田塾大学客員教授を務めるほか、伊藤忠商事(株)
社外取締役などを務められると同時に首都圏若者サポートネットワークの顧問を務める
ほか、累犯障害者を支援する共生社会を創る愛の基金や、生きづらさを抱える若年女性
を支援する「若草プロジェクト」の活動にも携わっていらっしゃいます。

村木氏が講演会のテーマに掲げられた「社会的養護下の子ども・若者を考える」の
「社会的養護」とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、
公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援
を行うことです。社会的養護は、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子ども
を育む」を理念として行われています。(出典:厚生労働省HP

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大人の責任としてちゃんと防いでいかなければ

「拘置所の中で、毎日お昼と夕方にラジオのニュースが流れるのですが、
私が一番聞きたくないニュース、嫌だなと思ったニュースが児童虐待のニュースでした。
私はこの時、この問題は、大人の責任としてちゃんと防いでいかなければ!
仕事を離れても、どこかで自分のできることをやっていこうと思いました」

と、村木氏。講演会冒頭に話されたこのエピソードは、身に覚えのない罪で
逮捕され拘置所生活を強いられた時のことでした。


どうして虐待なんか・・・
実際に子どもたちと接して感じたこと、子育てをめぐる環境の変化、児童虐待の
現状と行政の対応、そして、大人たちに発見されず、困難を抱えたままの子ども
の行く末はどうなるのか・・・
私たちの見えないところで、子どもたちや子育ての問題が深刻化している様子を
多角的な視点とデータを用いながら丁寧にご説明いただきました。

後半からは、瀬戸内寂聴氏と共に代表呼びかけ人となっていらっしゃる
「若草プロジェクト」の活動の様子をご紹介いただきました。

コロナ禍において、ますます窮地に追いやられている少女たち

家に居場所のない少女たちが、SNSを使った誘拐や性被害、援助交際、家出、
泊め男などに簡単にひっかかってしまう。
少女たちの居場所を奪っている要因は、貧困や虐待、ネグレクトなどの自分
ではどうにもならない家庭環境にある。しかし、そのことを誰にも相談できす、
一人でどうにかしなくてはと悩み苦しんでいる少女たちがいる。

コロナ禍において、少女たちがますます窮地に追いやられている現実があること、
「若草プロジェクト」の存在が必要不可欠であることをお話いただきました。

我々は子どもの味方になることができる

「子どもに必要なものは何か」についてお話された中で、
大熊由紀子さんの「誇り・味方・居場所 私の社会保障論に書かれている
「味方」という言葉を取り上げられ、こう話されました。

「私は『味方』という言葉が好きです。支援者じゃないんです。味方なんです。
我々は子どもの味方になることができると思っています。」

温度のある「味方」という言葉。
子どもの頃、誰もが憧れた「正義の味方」を連想された方もいらっしゃった
のではないでしょうか。
「支援」という言葉が「味方」という言葉に変換されたことによって、
私たちにできることの広がりを感じた瞬間でした。

会の結びには、東京大学の先端科学技術研究センター准教授 熊谷晋一郎氏の
次の言葉で基調講演を締めくくられました。

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『自立』とは依存しないことではない。
『自立』とはたくさんのものに少しずつ依存できるようになることである」

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講演会終了後の質疑応答で紹介された質問に
「普通の主婦です。子育てをしながらでもできることを教えてください」
との問いかけがありました。

村木氏は、質問者への感謝の言葉を述べられた後、

「1つは、入口として『学ぶ』ということがスタートになると思います。
子どものことを勉強することや、子ども食堂などでボランティア活動をするという
こともいいと思います。
そして、すぐにできることは、あいさつの声をかけてください。
「おはよう」とか「おかえり」という言葉って、実はすごく大事で、あいさつを
交わすことで心のエネルギーがかわるんです。あいさつや声がけをしてください」

と呼びかけられました。
村木氏から発せられた言葉の一つひとつが私たちの心を動かし、参加者全員が
困難を抱える子どもたちに心を寄せ、一体感を感じることができました。

その後、休憩をはさみ、当財団の評議員を務めていただいております
永岡鉄平氏による事例報告「機会と縁が子どもと若者の可能性を広げる」が
スタートいたしました。

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「うまれ」や「育ち」に関係なく
全ての若者達が自分らしい「はたらく」を実現できる社会へ

永岡氏は、大学卒業後、リクルートグループに入社され、もう1社を含めて通算
5年間、企業の採用支援、学生の就職支援双方に携われてきました。

若者と雇用をテーマに、未解決な社会的課題に挑戦したいと起業を決心し、起業
準備中に参加した勉強会で社会的養護の子ども達・若者達の存在を知り、親から
の支援が見込めない中で高校卒業後18歳という若さで社会に挑戦するものの、
多くがワーキングプアとなる彼等・彼女等の現実を知ります。

そこで、人材業界で培った経験を活かし、彼等・彼女等の就労支援を決心され、
2011年8月に株式会社フェアスタート起業。2013年1月には、NPO法人フェアスター
トサポートも設立され、現在両法人の代表を務められています。

仕事が楽しいと人生が楽しい

永岡氏の就職支援は「うまれ」や「育ち」に関係なくすべての若者たちが自分らしい
「はたらく」を実現できることを目指しています。

社会的養護下にある子どもたちは、高校を卒業し就職するケースが多く、課題も多い。
特に、永岡氏が注目したのは、社会的養護下にある若者の離職率の高さでした。

そして、その要因は、就職活動の準備期間が短いことや、仕事の中身ではなく住まいの
有無で仕事を選択せざるをえない状況にあることに気が付きました。ミスマッチをでき
るだけなくし、このような不平等・悪循環を解消するために、子どもたちと企業の良い
縁をつくることが必要と、株式会社フェアスタートとNPO法人フェアスタートサポートを
設立しました。


NPO法人フェアスタートでは、仕事の体験の機会など就職前のキャリア教育と、就職後の
フォローなどを行っています。そして、株式会社フェアスタートでは、就職先の紹介など
を事業として行い、2つの法人を使い分けながら「顔の見える就職」を行うことでミス
マッチを解消してきました。

このような取り組みにより、社会的養護下にある若者の就職から1年以内の離職率が5割と
言われている中、永岡氏がサポートしている若者たちは就職から4年以内の離職率が17%と
数値でも取り組みの成果が現れています。

「『仕事が楽しいと人生が楽しい』
これは僕がすごく好きな言葉です。リクルートにいた時に社内標語で掲げられて
いた言葉で、今も自分の根底の価値観になっています」と永岡氏。

永岡氏とスタッフ6名で運営する2つの組織の目標は、
「日本全国レベルで企業の情報を発掘し、各児童養護施設がその情報を活用できるよう
企業と施設双方へのアプローチを強化すること」

起業と施設のネットワーク作りに今日も奔走されています。

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本講演は、新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため、みなさま方と村木厚子氏・
永岡鉄平氏が一堂に会しての講演会を実現できませんでした。

しかし、オンラインで開催したことにより、遠方の方、足元に不安のある方より
「気軽に参加できて有難い」とのコメントが寄せられ「オンライン開催だからできること」
に可能性を見いだすことができました。今後も、様々なツールを活用してより多くの
みなさまと同じ時間を共有できるよう進めてまいります。

神奈川ゆめ社会福祉財団は、この講演会で知り得たことをみなさまと共有し、引き続き
様々な団体と連携・活動し、困難を抱える子どもたちのためにできることを考えてい
きたいと思っております。

質問や感想をお寄せいただいたみなさま、本当にありがとうございました。
すべてをご紹介できませんでしたこと、また、講演中に画像の乱れがありましたこと、
重ねてお詫び申し上げます。